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INTERVIEW ROOM
日米の起業システムの相違

消費者金融専門紙
月刊クレジットエイジ1999年8月号に掲載

起業家が数多く誕生する米国。昨今のインターネットの普及により、その勢いはさらに加速している。外資の参入で競争にさらされる日本の経営者にとって、ベンチャーを輩出する周辺環境や意識には大いに見るべきものがある。米国ダラスを本拠地に、日米両国で主にベンチャーへのコンサルティング事業を展開する浜口直太氏に、日米の起業システムの相違、起業家や経営者を育む文化、マネー感覚の違いなどを伺った。(平成11年4月23日東京で)

起業により自分で自分を守る米国社会

---日本に比べ米国は、多くの起業家を輩出しています。文化や社会システムなど、米国には事業を起こしやすい土壌があるのでしょうか。

浜口 米国の一流大学や一流企業に在籍するエリートは、特に独立起業志向が旺盛ですが、早い人は大学でMBA(経営学修士)取得と同時に会社を作ります。もともと米国は、日本のように会社の資本金が1000万円以上必要などといった規定がなく、1000ドル(約12万円)程度もあれば十分でした。それが昨今のインターネットの技術革新により、事務所やスタッフの経費も小額で済み、起業しやすくなったことも一つの要因です。

しかし、最大の理由はやはり「教育」にあります。米国の子供たちは、幼い時から他人とは違う視点を探し、異なる行動を取ることに価値を見出す。まんべんなく何でもこなすことより、得意分野で抜きん出ることを目指す教育を受け、早いうちから自分の力を示そうと考えています。

---それは米国の開拓者精神の表れとも言えるのでしょうか。

浜口 ええ、西部開拓のフロンティア・スピリットはまさに国民精神の根幹です。単なる安定をよしとしない国民性ともいえるでしょう。

米国は大企業でさえ、生き残り策として大胆なリストラを行いますね。能力云々よりも、会社の事情で簡単にリストラの対象になってしまいますから、米国人はどこの会社に属しても絶対的な安定はあり得ないことを身を持って知っています。確実なのは自分自身が身につけた専門能力と知識のみ。それさえあれば、自分の力で生き抜くことができ、より自分に合った職場環境を選べるという考え方が根底にあります。MBAのような資格に人気が集まるのもそのためです。

---日本では、競争よりむしろ安定志向が強いですね。

浜口 日本は規制緩和が始まるまで、まるで社会主義国かと思うほど政府や規制によって人為的に守られ、すべての面で安定した"異常な社会"でした。資本主義といいながらも、社会・共産主義にも似た妙な保護ルールがあり、理屈に合わない安定感があった。そのルールさえはずさずに進めば、まず間違いなく安定した生活が送れるという不自然な社会だったといってよいでしょう。それが規制緩和によって安定が崩壊しつつあるのですから、日本が大騒ぎになるのは当然です。

それに対して米国では、社会からの庇護はなく、頼れるものは自分だけ。若いうちから「会社を興し、自分で自分を守らなくては」と考えざるを得ない社会状況があるのです。

子供に「ミニ倒産」を経験させる金銭教育

---米国に比べ、起業家や投資家が少ない日本の社会環境とはどう違うのでしょうか。

浜口 まず、根底の「マネー」に対する考え方が非常に異なります。

「カネ」というものには、2つのコンセプトがあります。1つは生活に必要な手段としてのカネ、もう1つは投資=リスクマネーです。米国では、リスクマネーと生活のカネがきちんと使い分けられ、例えば年間純資産が25万ドル以上、年間所得が15万ドル以上でないと、ベンチャーへの出資ができないという限定があります。自分の生活費をつぎ込んでまで投資しないよう、国が予め規制してしまうのです。

---日本では生活費をリスクマネーに充てて破綻する例が後を絶ちませんね。

浜口 そうですね。日本では2つのカネに対する概念が定着しておらず、区別ができていないと思います。そのため個人のリスク判断とマネー管理力が発達してこなかったのです。

こうしたマネー感覚を学ぶ環境にも、日米では大きな差があります。米国では中高生のアルバイトは常識で、デート代や車代など、趣味や欲しいものに使うお金は自分で稼ぐのが基本です。そのため「収入はいくらで支出はいくら」というマネージメントの習慣が子供の頃から身に付いています。

---日本では中学生のアルバイトなど、とんでもないという感覚ですね。

浜口 米国では何より実体験させることを重視し、株式投資なども模擬授業で教えます。自分で稼いで消費し、時にはやりくりできなくなる「ミニ倒産」を経験させることが重要です。そのため「親からの利子付きの借金で大変」というクラスメイト同士の会話も日常茶飯事で、親が金持ちだろうが全く関係ないのです。

消費者自身が金銭管理感覚を会得してこそ、真の資本主義の論理やメカニズムが働きます。米国経済が何度も強く立ち直るのは、まさに国民全体が持つマネーマネジメント感覚が正常に機能しているからに他なりません。

「失敗」によって何を学んだかが評価の対象になる

---米国ベンチャー企業の高い成功率にも、やはり金銭管理感覚が起因しているのですか。

浜口 ええ、成功率は日本の10倍以上ですから、社会環境の影響も、要因の1つです。日本では少々会社が傾き始めると、個人の資産を充当しても倒産を避けようとします。しかし、米国では"敗者復活"的な社会制度が整っており、個人保証せずとも倒産が比較的簡単であることが大きな理由です。ビジネスの失敗から前向きに立ち上がるチャンスが日本より多いといえるかもしれません。

---日本の経営者は倒産によって社会的信用を失ってしまうと、立ち直るのは容易ではありません。

浜口 さらに面白いことに、あるベンチャーへの出資を検討する場合、以前に失敗をしているかどうかが重要な判断基準になることもあるのですよ。

---失敗があると出資しないのですか。

浜口 いえ、それが全く逆なのです。日本では失敗経験を持っていると、なかなか受け容れられませんが、米国市場は「人間は失敗しながら新しいことを学ぶ。1度失敗した分野なら、次はうまくやるだろう」と考えます。逆に成功し続けるベンチャーに対しては「いずれ失敗するかも」と懸念する場合もあります。つまり、失敗によって何を学んだかが考慮の対象になってくるのです。

---すると、ベンチャーにとって、ある程度の失敗は有利になりますか。

浜口 よほど深刻で重大な失敗でない限り、少なくともリスク管理の点では、成功率が以前より高くなると判断されます。こうした敗者復活が比較的容易な理由は、米国の強固な人権擁護の発想から来ているといえるでしょう。日本は人権を守るというより、体裁を優先することも多いですからね。

---日本では一般的に、一流大学から一流企業へというコースが最善と考えられています。米国では高校を卒業して一旦社会経験を積んだ後、自分の学びたい分野を大学で勉強することが珍しくありませんね。

浜口 ユニークさが至上の社会ですから、人と同じことだけやってきた人には説得力がないと見なされます。幼少時から他人との差別化を意識し、能力を他人にアピールする自己表現力の習得が、非常に重要視されているのです。

日本と米国の学生に自己紹介の3分間スピーチをさせると、米国学生は見事にその場で自分のよさをアピールできます。ところが日本の学生は「自分は何の取り柄もない普通の人間で…」と切り出す人が大半。目立たず謙虚に普通の生活を送ることが美徳だ、という社会通念がありますからね。そこが日本民族の奥ゆかしさというか(笑)。

もともと意思疎通の容易な単一民族ですから、本音と建前を使い分けても互いに理解できます。しかし米国は人種のるつぼ、暗黙の了解は通じないと思った方がよいでしょう。建前が全くないとはいいませんが、よほど親しい相手でないと誤解に泣くことになります。自分は能力がないなどと言おうものなら、本気にされかねない。特に上司の前では、日本ならひんしゅくを買うほど「自分にはこんな能力がある」とアピールを繰り返さなくてはなりません。そのうち誰かが認めて評価してくれるだろうといった社会ではなく、強烈に自己PRを展開しなければ、望む仕事にさえ就けないのです。

利益率や株価が基準
実績より「経営の中身」が大切

---日本企業の欧米進出が必ずしも成功しないのも、そうした国民性と関連がありますか。

浜口 日本でもようやく他者との差別化戦略が注目され始めたものの、「不言実行」のような社会観念が大きく邪魔しています。米国に進出しても、言動で目立つより業績を示すことが最善であるかのように考えてしまうのです。

しかし、経営者は企業の顔であり、「目立つ」ことも重要な企業PRの1つです。社長が変ると企業カラーも全く異なってしまう米国では、新しい経営トップは何者か、どんな考え方を持っているかで会社を判断します。社長就任時には、自分の方針や戦略の路線、競合他社との違いを社会に訴えかけ、明確に示さなければなりません。横並びでは、株価や格付けにも大きく影響してしまいます。遠慮は禁物の社会なのです。

---日本も外資の参入などで様相が変化しそうですが。

浜口 国内企業でも社外取締役などの執行役員制度を採用し、経営変革の動きがありますね。

規模や売り上げで会社を評価する時代は終わりました。今後は「利益率」や「株価」が評価基準になります。売り上げさえあれば周りが評価してくれるというわけにはいかなくなるでしょう。日本市場は一旦評価が確立されれば安泰という傾向がありましたが、今後は1年ごとに「経営の中身」が評価されるようになり、ある意味で非常にしんどい状況を迎えつつあります。

---日本の経営者は、現状下で何をすべきでしょうか。

浜口 前任の社長や他社との差別と独自性をはっきり示し、忠実に実行することです。それが株価や企業評価につながり、ひいては投資家や取引先の支援を得ることになる。無言企業では弱体化してしまいます。

いかに投資家にアピールすべきかという戦略上の概念を、米国では「インベスター・リレーション」と呼び非常に大切なファクターになっています。良い例が世界中の本の注文・発送を請け負うインターネット書店のアマゾン・ドット・コム社(http://www.amazon.com/)。新しいオンライン流通分野を開拓した企業として有名ですが、明確なビジョンや理念を業績評価公表の直前に発表し、投資家にうまくアピールしています。経営上は未だに赤字ですが、株価も投資家からの支援もうなぎ登りです。日本でもそうした企業評価での戦略に、経営者が注力する時代を迎えたといえるでしょう。

ベンチャーの8割が消費者金融で資金を調達

---日本が米国型のフリーな資本主義社会へと変革・移行するには、どのくらいかかりますか。

浜口 金融自由化に対する政府や企業の対応を見ると、歪んだ規制の撤廃、純粋な資本主義活動を行う基盤整備に、少なくとも10年はかかりそうですね。日本の弱点は「黒船の襲来」、つまり外圧です。今回はその外圧を逆に利用し、外資の進出を促して、競争力アップを学ぶのが早道ではないでしょうか。

---昨今、GEやアソシエイツによる国内消費者金融業者の買収も目立ちますが、外資に学ぶ点も多くありそうですね。

浜口 ええ、日本型経営から脱却するための第一歩として、新たな消費者金融の利用法を企業側から市場に提案していくとこが必須です。「お金がないから借りる」という補填利用目的以外に、「すぐ使える短期的に有効なお金」として定着させれば、消費者金融の役割が見直されるはずです。

---といいますと?

浜口 日本にはなかなかな馴染まないかも知れませんが、例えば投資用の蓄えはあるが、早急に必要な手元資金がない場合。長期で高利子の預貯金はそのまま置いておき、その代わり短期融資で投資資金を消費者金融から借り入れる。利益や利率を計算すると、預貯金を切り崩すより有利な場合があります。あらゆるケースを想定した利用法の提案を行えば、消費者に喜ばれる金融機関として、社会的にも意義ある存在に成長していけるのではないでしょうか。

---預金金利がゼロに近い状況で、消費者も預金の活用法を探しています。

浜口 今まで消費者金融のシステムは、企業側というより借りる側の必要度に拠っていました。今後は余剰資金を持つ層に対し、短期資金としての融資を提案をするという方向性があるでしょう。その点、米国は従来顧客と新マーケットのバランスが見事に成り立ち、成功しています。

---米国における消費者金融の利用傾向には、特徴的なものがありますか。

浜口 実は、米国ベンチャーが起業の際の資金調達先としてよく用いるのが、消費者金融会社です。日本では考えられないことですが、カードで当座の資金を借り、その後ベンチャーキャピタルやエンジェルのような投資家へと調達先を変えていくのが一般的です。ハイテク企業で成功したベンチャーに開業資金の調達先を聞くと、ベンチャーにとって欠かせない資金調達の場になっています。日本でも今後、こうした分野への参入を研究する価値はあると思います。

米国はまさに、システム効率化、体制管理、コスト削減面での競争となっており、業務のコンピュータ化と電子商取引の導入は勝敗を決める重要な要因です。そこで注目を集めているのがエレクトロニック・コマース(電子商取引)です。その影響で、今やハイテクのアウトソーシング会社の事業の中心は金融であるといっても過言ではありません。IBMと並ぶ世界最大級のコンピュータシステム会社のエレクトロニック・データ・システム(EDS、本社:ダラス)はその代表例です。

日本も効率化が課題ですが、今後は1歩先を行く米国の動向、特にシステム関連の企業動向をも知ることが重要といえるでしょう。

     
 
  
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