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米国調査・研究視察報告

ビジネスの成功は「スピードと戦略・戦術」

自分の判断で情報をチェックし自分の判断で投資する

浜口: 他方、株式を公開しないメリットも見逃せません。私が注目する企業に、フィラデルフィアで550店舗を展開する「WAWA」というコンビ二チェーンがあります。体カ的に充分株式公開できるレべルですが、敢えて公開していません。その理由を訊ねると、「我々の目的は資金調達ではなく、顧客と従業員を大事にすることだ。この目的は、むしろ公開しない方が達成しやすい。もしも公開によって達成できるなら、今すぐにでもするだろう」と説明されました。公開しないことで長期的政策が立案でき、従業員のために工夫したプログラムを作成できる。株主から「従業員に甘いのでは」という突き上げも来ない。徹底して顧客と従業員を大事にする方針に則ればこその非公開であるという決断に、私は納得せざえるを得ませんでした。

渡邉: 日本ならいざ知らず、公開が企業のスタートである米国では、かなりの英断ですね。

浜口: ええ、まずはNASDAQ(=米店頭株式市場)に上場することが、米国企業のスタートラインです。しかし、このように確固たる目的と戦略があれば、必ずしも公開だけが最善ではないといえるでしょう。社内の高度なシステムやノウハウを他社に漏らしたくなく、ディスクロージャーを避けたい場合など、非公開も会社にとって戦略の1つといえます。

しかし、米国の価値観はお金で決定します。経済的に確立された企業ほど発言力を持つ面で、日本とは根本的に異なる社会でもあります。よく冗談混じりで、お金があれば何でもできる国といわれますが、それに近い場面には何度も遭遇しました。例えば、スピード違反で捕まっても、警官にお金を払えばチケットは切られずに済むなど、日本では考えられないことが、現実に罷り通っています。金の威カは、この国に長くいればいるほど実感されます。

岡田: 資金もなく人材もない起業したばかりの会社には辛い社会ですね。

浜口: だからこそ、戦術としての公開が有効な手段になってくるのです。公開すれば、かなり優秀な人材も得られます。公開という手段がなければ、ベンチャー企業の多くは現在のように発展しなかったかもしれないほど、大きな役割を果たしてきたと思います。

但し、公開すると従業員は株を手にするが、その後会社が急成長すると株を売り払って資金を手に入れ、それを元手に会社を起業してしまう、という事態も珍しくありません。新産業が次々に誕生する点では良いことといえますが、事業主にとっては非常事態です。

渡辺: 痛し痒しの矛盾ですね(笑)。

浜口: ともかく、お金が最も高い地位を占めるこの国で、従業員に経済的な夢を与えることができないというのは、かなりのデメリットです。公開していないのは、社員に夢を与えることができないことに等しい。米国は地域社会が1つの単位なので、非公開会社の社員は奥さんや子どもに会社自慢もできない。米国ではそうした価値観を重んじる傾向が強いのです。

藤澤: 自分の仕事に対する誇りの高さが感じられますね。

浜口: 特にほとんどの日系企業は非公開なので、優秀な人材を長く確保しにくい側面があります。日本企業が米国に進出して20年が経過していますが、好調な米国経済の中にあって、多くの日本企業が赤字で苦戦している背景にはこうした事実もあるのです。

徹底した自己責任社会

岡田: 今回の視察で、米国は起業プランだけで資金が集まるという事実を知りましたが、日本では起業の際に不特定多数の人たちから広く資金を集めることは、出資法で禁じられていますね。

浜口: 米国でも実はある程度の基準があります。ただ、投資は基本的に個人の判断に基づいて決定します。ディスクロージャーさえきちんと行っていれば、あとは個人の問題です。典型的な例では、日本での上場には証券取引委員会や行政が関わり、公開内容が正しいかどうかまでチェックします。しかし米国では、投資するのは個人の勝手であり、重要なのは投資するための判断材料である情報が充分に提示されているかどうか、虚偽はないかです。その辺りを証券取引委員会や政府機関、州機関が判断します。つまり、資金を集める行為は、ディスクロージャーされた内容が正確に会社の実状を反映していれば問題ないことになります。

國本: なるほど。まさに"自己責任先進社会"ですね。

浜口: 米国では資金を集める際、簡単な事業計画書を書き、必ず「これはあくまでも我々が出した情報であって、完壁なものではない」と一筆を入れます。つまり「あなたの判断でこの情報をチェックして、あなたの判断で投資してください」と念押しすることによって、投資してもらう側から投資する側に責任が移るシステムです。今後そうした考え方は日本でも見直されてくるはずです。お金の問題は、結局は誰が責任を持つかということに尽きます。

お金を出すということについて、米国社会は「もし返ってこなくても仕方がない、自分自身に対する授業料だった」と割り切って考える部分があります。だからこそ、米国は何度失敗しても許される国であり、何度も敗者復活し、最終的には成功できるアメリカンドリームの国なのです。

もはや根回しは不要
生き残りのカギは「スピード経営」

浜口: 米国人起業家には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは金儲け、つまりマネーゲームが好きな人。これは会社を築いて稼いで早々に引退するというタイプ。もう1つは、ビル・ゲイツのように、学生時代から自分はどうしてもこういう仕事をしたいんだという、仕事が好きで好きで仕方がないというタイプ。こちらは比較的仕事に対する情熱が長続きします。マイクロソフト社の例は非常に希ですが、べンチャー企業として大成功し、一挙に巨大企業となった今も創設者が経営している。日本同様、米国でも小さかった会社を大きくしていく過程で、その時期に合った経営者が采配をふるう役割分担型が大半を占めます。しかしビル・ゲイツのように、起業から現在に至るまで、増収増益を重ねて経営し続けているのは稀有です。とにかくソフトづくりが好きなのだ、という姿勢が見えてきますね。今後は一体どうするのか、とよくインタビューされているようですが、その度に「今の仕事が好きだから、他のことをするなんて考えられない」と答えています。あれほどの資産があれば、引退してラクな人生が送れるのにそれをせず、いまだ世界中を飛び回っている。こういう人こそ本来あるべき経営者の姿ではないかと私は思っています。

現状の米国は、マネーゲームの感覚が強く、今はインターネット企業がいいというと一斉に殺到します。そのうちどれだけの人が「好きだから」という理由で携わっているのかは疑問です。もちろん、経営哲学や戦略を持っていないので上場後に訴訟で潰れたりする例が多いですね。何事も理念がなければ長続きしません。本物の企業経営者が少なくなってきているのは残念です。

岡田: 「まず理念ありき」は洋の東西を問いませんね。

浜ロ: 大半の米国人にとって、金儲けは早く引退して優雅に暮らすための手段なのかもしれません。例えば社員全員にストック・オプションを持たせ、全員で一斉に株を売ってしまえば、みんながハッピーになり得る可能性もあります(笑)。その反面、明確な戦略を持たないと、とんでもない目に遭わされることも他人事ではないのです。

藤澤: 米国人の「追究好き」には驚かされます。インターネットも金融もとことん追究し、最後には誰でも簡単に利用できる仕組みづくりを作り上げる、そんな印象を受けました。そしてそのシステムをスピード経営で軌道に乗せていく。その目的の大半が金儲けだというのがよく分かりませんが(笑)。翻って、日本の消費者金融業界で例えば自動化をとことん極めたらどうなるか考えてみると、ボタンひとつで審査から回収まで自動的にやってくれる仕組みを作ってしまったら・・・。それを実現してしまうのが米国的合理主義なのかもしれません。しかしその一方で、従業員のやる気を起こさせる仕組みを必死になって世界中から探している。その柔軟性に米国の強さの一端を見た思いです。

渡邉: その方法は今の日本でも見つけられるでしょうね。合理主義に欠けることで批判される日本企業も自信を持ってよいのではないでしょうか。

藤澤: しかし、経営という点では時代の流れに取り残されないよう、今後は「スピード経営」に徹する必要があるのかもしれません。

浜口: これだけ社会の流れが早くなると、まさにスピード経営の成否が今後の生き残りのカギとなってきます。従来の「根回し」は時間の口スや経営の失敗につながる恐れがある。成功企業の動きを見ると、充分な情報のない段階で早い意志決定を行い、着手するため、後からいくらでも軌道修正ができる。集まる情報量は未知数ですから、待つよりまずやってみる。結果的にはこれが成果を挙げているのです。その点、米国での成功企業は、どこも間違いなく「スピード経営」を行っています。これからの経営戦略のカギは、時間との勝負だといえるでしょう。

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